journal

サラリーマン奴隷のふとしたことを

うなぎとモルツ

Yシャツにアイロンをかける。僕の土曜午後の日課。アイロンをかけている最中、退屈しないために落語を聞いたり、映画を見ることにしている。今日は「男はつらいよ」をチョイスする。寅さんを見ていて、ふと先輩Aを思い出す。枠にとらわれない、破天荒だけれど、風流な人である。


蝉の鳴き声が響く、アスファルトの照り返しに息が詰まる夏の日、先輩Aと会社の昼休みに飯を食べにオフィスを出る。
「うなぎ食いたいな。」
うなぎ好きな先輩Aは言った。毎日、外食しているので、少しは安い昼飯にしたい僕は言う。
「高いし、別なのにしよう、うなぎを食べられる店も知らないよ。」
「いいから、金なら出すし。」
先輩に誘われるままにうなぎ屋に入る。ちなみに店は思いの外オフィスから遠く、この日は昼休みを1時間30分くらいはとったように記憶している。

初めて入る店は何となく緊張する。料金や、料理が出るまでの時間、接客がどんな感じなのか、そんなことに気を取られている僕を尻目に先輩は言う。
「ビール飲もう」
僕は耳を疑った。
「仕事中ですよ!」
「ばれねーよ」
先輩はうなぎとビールを注文した。僕はうなぎと烏龍茶にした。


振り返ると、僕もあの時にビールを注文すればよかったと後悔する。アイロンがけも終わって、久しぶりに先輩Aに連絡をとってみようかと携帯電話を手に取ったが、考え直してやめた。